大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成9年(行ケ)154号 判決 1998年6月30日

東京都渋谷区元代々木町49番13号

原告

株式会社サザビー

代表者代表取締役

鈴木陸三

訴訟代理人弁護士

安原正之

佐藤治隆

小林郁夫

弁理士 安原正義

染谷仲一

大阪府大阪市中央区安土町3丁目3番5号

被告

株式会社イケガミ

代表者代表取締役

池上輝幸

訴訟代理人弁護士

伊藤真

弁理士 梅村莞爾

主文

特許庁が平成7年審判第1744号事件について平成9年4月18日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)に定める商品区分第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」とし、ゴシック体片仮名文字「アフタヌーンティー」及びゴシック体アルファベット文字「AFTERNOONTEA」を二段に横書きしてなる登録第2023874号商標(昭和60年7月26日出願、昭和63年2月22日登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成7年1月13日、本件商標につき、商標法51条1項の規定に基づく商標登録の取消審判を請求した。

特許庁は、同請求を平成7年審判第1744号事件として審理した結果、平成9年4月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月2日原告に送達された。

2  審決の理由

審決の理由は、別紙審決書写し(以下「審決書」という。)に記載のとおりであって、その要点は、次のとおりである。

(1)  本件商標は、「アフタヌーンティー」の片仮名文字と「AFTERNOONTEA」の欧文字とを二段に横書きした構成からなるところ、片仮名文字部分と欧文字部分より生ずる称呼、観念は、ともに「アフタヌーンティー」及び「午後のお茶(茶話会)」であり、これ以外の称呼、観念は生じないものとみるのが相当であるから、本件商標を、片仮名文字部分のみ、又は欧文字部分のみで使用したとしても、社会通念上本件商標と同一の範囲内の使用と認め得るものである。

そうとすれば、被請求人使用商標(審決書別紙(B)、(C)。以下、各被請求人使用商標をいう場合は、被請求人使用商標(B)のように表示する。)は、いずれも本件商標の欧文字部分の使用と認められるものであるから、本件商標の変更使用とは言い得ないものである。

(2)<1>  請求人(原告)は、請求人使用商標(審決書別紙(A))が輸入雑貨の販売又は喫茶店の商号として使用され、周知著名であると主張し、その事実を証明するものとして甲各号証を提出しているが、甲各号証によっては、請求人使用商標が、輸入雑貨の販売又は喫茶店の商号(喫茶店の商号は「アフタヌーンティールーム」と認められる。)としてある程度知られている事実を認め得るが、未だ著名の程度には至っていないものと判断するのが相当である。

<2>  加えて、被請求人使用商標が使用されている商品「かばん類」と、請求人使用商標が使用されている商品「輸入雑貨」等とは、明らかに非類似の商品と認められるものである。

<3>  しかも、両者の態様も、審決書別紙に示すとおり、白抜きと黒ベタの相違がある。

<4>  してみれば、被請求人(被告)が、被請求人使用商標を商品「かばん類」について使用したとしても、請求人使用商標との関係において、混同を生ずるおそれはないものというべきである。

3  審決の取消事由

審決は、被告による被請求人使用商標(B)の使用は、商標法51条1項の規定する要件を満たすものであるのに、誤ってこれを満たさないものと認定、判断したものであるから、違法なものとして取り消されるべきである。

(取消事由)

(1) 請求人使用商標に類似する商標の使用

審決は、「本件商標を、片仮名文字部分のみ、又は欧文字部分のみで使用したとしても、社会通念上本件商標と同一の範囲内の使用と認め得るものである。」と認定するが、誤りである。

<1> 被告が「若い女性向けのかばん類」に審決書別紙(B)の形態を有する被請求人使用商標(B)を平成5年3月から使用したことは、被告の自認するところである。

<2> そして、不使用取消審判では、本来使用をしているからこそ保護を受けられるのであり、使用をしなければ取り消されてもやむをえないのに対し、不正使用取消審判では、商標の不当な使用によって一般大衆の利益が害されるような事態を防止し、かつ、そのような場合には当該商標権者に制裁を科する規定である。したがって、登録商標との同一性の概念を認めるとしても、専ら自己の登録商標との同一性のみを考慮して第三者の商標を考慮する必要がない商標法50条1項と、自己の登録商標と第三者の商標との関係を問題とした上で登録商標との同一性を論ずる必要がある商標法51条1項とでは、登録商標の同一性の範囲が異なることは当然である。

しかるに、審決は、第三者の使用する商標との関係で、被請求人使用商標(B)がなぜ本件商標と社会通念上同一といえるのかを明らかにしていない。

<3> 本件商標中の欧文字部分は、ゴシック体で記載されるのに対して、被請求人使用商標(B)は、本件商標と明らかに態様を異にし、「Afternoon」と「Tea」を1単語として扱うなどの特徴を有する請求人使用商標に近似させるものであるから、被請求人使用商標(B)は、本件商標と同一ではなく、類似商標に当たるものである。

(2) 混同を生ずるおそれ

審決は、被告が被請求人使用商標(B)を商品「かばん類」について使用したとしても、請求人使用商標との関係において、混同を生ずるおそれはない旨判断するが、誤りである。

<1> 後記(3)ないし(5)に検討するとおり、被請求人使用商標(B)をかばん類について使用すれば、請求人使用商標との関係において混同を生ずるおそれがあることは明らかである。

<2> 実際に、原告商品と被告商品との混同は生じている(甲第23号証-株式会社伊藤忠ファッションシステム作成平成6年9月28日付け「池上「アフタヌーンティ」ブランド認知実態調査-報告書-」、甲第54号証-平成7年7月6日付け小牧圭介報告書)。

(3) 請求人使用商標の著名性

審決は、「請求人使用商標が、輸入雑貨の販売又は喫茶店の商号(喫茶店の商号は「アフタヌーンティールーム」と認められる。)としてある程度知られている事実を認め得るが、未だ著名の程度には至っていないものと判断するのが相当である。」と認定するが、誤りである。

<1> まず、原告が請求人使用商標を付して販売、営業活動をするのは、輸入雑貨の販売に限らず、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の販売、喫茶店の営業もある。

<2> 商標法51条1項にいう「他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずる」ためには、他人の業務の著名性は要求されていない。周知性は、混同のおそれの有無の判断材料の1つにすぎない。

<3> そして、請求人使用商標は周知著名である。

(a) すなわち、原告は、昭和56年9月に、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の販売及び喫茶店を営業する店舗の商号及び商標として「AFTERNOON TEA」(以下、その商標を「AFTERNOON TEA」商標という。)を選択し、渋谷パルコ店をオープンし、以後、ほぼ毎年店舗数を増やしてきた。

(b) 平成5年度(平成6年3月31日)においては、雑貨の販売を行う「アフタヌーンティー」(以下「アフタヌーンティー店舗」という。)の売上げは38億6,600万円、喫茶を提供する「アフタヌーンティールーム」のそれは41億5,645万円であり(甲第3号証)、平成6年度においては、それぞれ57億6,700万円、60億9,100万円である(甲第24号証)。

店舗数は、平成6年10月31日現在、「アフタヌーンティー店舗」は40、「アフタヌーンティールーム」は41であり(甲第3号証)、平成7年4月末現在では、「アフタヌーンティー店舗」は41、「アフタヌーンティー・ピザキッチン」は1、「アフタメーンティールーム」は44である(甲第24号証、甲第96号証)。

(c) 原告は、昭和62年から、請求人使用商標の形態で「AFTERNOON TEA」商標を使用している。

(d) 原告は、バッグ事業本部、リビング事業本部、フード事業本部ほかからなり、バッグ事業本部で扱うバッグの製造販売には「SAZABY」、「agnes b.VOYAGE」商標を選択し、リビング事業本部で扱う家具、雑貨には請求人使用商標、「ICL」商標を選択し、フード事業本部で扱う喫茶、菓子については請求人使用商標等を選択し、アクセサリーについては、「ageete」を選択し、各店舗で販売、サービスを提供している(甲第36、第37号証)。

さらに、関連会社として、フランス人デザイナー、アニエスベーの衣服等の商品を扱う合弁会社株式会社アニエスベーサンライズ等がある。

(e) 原告は、次のように、広告宣伝につとめている。

甲第25号証-「non・no」平成7年4月5日号

甲第26号証-「an・an」平成7年4月7日号

甲第27号証-「an・an」平成5年11月26日号

(f) また、次のように、雑誌等で取り上げられている。

甲第4号証 -主婦の友社「雑貨のすべて」平成5年4月6日発行

甲第5号証 -「OLIVE」平成4年11月18日発行

甲第6号証 -「Grand Magasin」平成5年4月号

甲第7号証 -「mcSISTER」平成3年7月号

甲第8号証 -「an・an」平成4年1月31日号

甲第9号証 -主婦の友社「雑貨カタログNo.16」平成6年2月25日発行

甲第10号証-「オレンジページ」平成5年2月28日臨時増刊号

甲第11号証-学習研究社「私の雑貨No.2」平成5年12月30日発行

甲第12号証-「non・no」平成3年8月20日号

甲第13号証-「an・an」平成5年3月5日号

甲第14号証-主婦の友社「雑貨カタログNo.18」平成6年8月25日発行。この雑誌で、アフクヌーンティーは、雑貨ショップのベストワンに選ばれている。

甲第15号証-パンニュース社平成5年7月25日付け「パンニュース」

甲第16号証の1、2及び甲第17号証-「MORE」平成4年12月25日号

甲第28号証-「AERA」平成6年3月14日号

甲第68号証-「週刊ダイヤモンド」平成9年7月19日号

甲第69号証-平成8年3月2日付け日本経済新聞

甲第70号証-主婦の友社「雑貨カタログNo.22」平成7年8月25日発行

甲第97号証-「non・no」昭和56年11月5日号

甲第98号証-「an・an」昭和56年11月13日号

(4) 形態の近似性

審決は、「両者の態様も、審決書別紙に示すとおり、白抜きと黒ベタの相違がある。」と認定するが、請求人使用商標と被請求人使用商標(B)の形態は極めて近似している。

<1> 請求人使用商標は、松本高明氏に依頼して作成したものであるが、極めて特徴的な形態を有している。すなわち。請求人使用商標では、通常は大文字Aと同文字に連続するfの文字との間隔は離れているのに対して、間隔を縮め、さらに、本来は二単語である「Afternoon」と「Tea」を、文法的には誤っているにもかかわらず、敢えて1単語として扱って表示している。

<2> これに対し、被請求人使用商標(B)は、請求人使用商標に比し、「白抜きと黒ベタの相違がある」との差異しかない。

色彩の差異は、商標上はさして重要ではないから、両者は同一商標ともいうべきものである(商標法70条1項)。

(5) 商品又は役務の関連

審決は、被請求人使用商標(B)が使用されている商品「かばん類」と、請求人使用商標が使用されている商品「輸入雑貨」等とは、明らかに非類似の商品と認められる旨認定するが、誤りである。

<1> かばん類、被服は、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の商品、喫茶店の営業と同様に、ファッションに関連する商品であって、「室内生活のすべてを統一したテイストのもとに提案する店」等においては、同一店舗で販売、提供されることもあること、雑誌等においても、トータルファッションの観点から、かばん類、被服と家具、日用品等を一緒に紹介されることも多いものである。

<2> すなわち、従来の百貨店とは異なり、生活全般について提案し、コーディネートする上で関連する統一したテイストの商品を集める店舗あるいはブランドが多数生じている。これらの店舗、ブランドでは統一したテイストをもとに提案する家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の販売及び喫茶店等に同一の商標、営業表示が付され使用される。

前記日本経済新聞記事(甲第69号証)にも、「室内生活のすべてを、統一したテイストをもとに提案する店は現在急増中だ。・・・いずれも家具、インテリア、ファブリックにカフェというA・T的な構成だ。」とした上、「T・C」、「ラ・メゾン・デピス」、「イデーショップ」が紹介されている。その他にも、「無印良品」、「SonyPlaza」、「クロワッサンの店」等が知られている(甲第70ないし第91号証、甲第93、第94号証)。

このような店舗では、従来の商標法上の商品区分にとらわれることなく、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実、かばん類、衣服、アクセサリー等の商品が喫茶店営業とともに品ぞろえされ、展示がされている。

<3> アフタヌーンティーは、上記<2>の多くの店の中で、最も知られている雑貨ショップである(甲第70号証)。

また、原告は、これら家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実、かばん類、衣服、アクセサリー等の商品、喫茶店の役務を、店舗を異にして提供するのみならず、これら商品、役務を一堂に集めて提供する複合店形式を採用している(甲第36、第37号証、甲第44号証)。

すなわち、前記アニエスベーについていえば、8新宿ルミネ店(番号は甲第44号証における番号。以下、同じ。)、13東武池袋店、14東急日本橋店、15伊勢丹相模原店、17千葉そごう店、19有楽町西武店、21札幌店、23神戸大丸店、26阿倍野店、31名鉄セブン店、36大分トキハ店、37福岡サザビーハウス等が、原告の他の商品、役務とともに店舗を構成する(甲第44号証、甲第37号証)。

また、池袋東武店では、アフクヌーンティールーム(喫茶)、アニエスベー(衣服)、アガット(アクセサリー)、サザビー(バッグ)、アフタヌーンティー(雑貨)が3階の同一フロアで売り場が配置されている(甲第48号証)。広島そごう(甲第45、第46号証)、大分トキハ店(甲第47号証)、有楽町西武(甲第49号証)等においても同様である。

(6) 被告の故意

被告は、請求人使用商標を付していない原告の商品と同一デザインの衣服、バッグ、アクセサリーに、被請求人使用商標(B)を付して使用することによって、請求人使用商標の信用にフリーライドし、あたかも原告がかばん類等についても請求人使用商標を付した新たな商品群を発生させようとしたと取引者、需要者に混同を与えようとする意図を有していたものである。すなわち、

<1> 被告は、平成5年3月から被請求人使用商標(B)の使用を開始したことを自認する。原告が請求人使用商標を使用開始したのは、前記のとおり、昭和62年であるから、被告は、原告による請求人使用商標の使用開始後に被請求人使用商標(B)を使用したものである。

<2> 被告は、原告が本件審判請求前10年以上前から継続して、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の販売及び喫茶店を営業する店舗の商号及び商標として、「AEFTERNOON TEA」を使用していたことを熟知し、かつ、原告の営業活動については資料を収集するほど注目し、熟知していたものであるから、原告が昭和62年以降請求人使用商標を使用していたことも熟知していたものである。

<3> 原告は、請求人使用商標を付したピクニックハンパー(甲第32号証)及び紅茶セット(甲第33号証)を販売している。

被告は、西神そごう(神戸市糀台5-9-4所在)において、少なくとも平成5年12月末ころ、被請求人使用商標(B)を付した被服を販売するに当たり、ディスプレイに原告のピクニックハンパーを使用していた(甲第34号証)。

また、被告は、SHIBUYA109MYPACE2(東京都渋谷区道玄坂2丁目29番1号所在)において、平成6年3月ころ、被請求人使用商標(B)を付した被服を販売するに当たり、ディスプレイに原告の紅茶セットを使用していた(甲第35号証)。

<4> 被告は、被請求人使用商標(B)の付されたバッグを販売している(甲第50ないし第52号証)が、これらバッグと原告がSAZABYとの商標を付して販売するバッグは、デザイン、色が全く同一である。

さらに、被告は、プレッションタイプのカーディガンを被請求人使用商標(B)を付して販売している(甲第53号証)。同カーディガンと原告が販売するカーディガンは、デザインが全く同一である。

被告は、アクセサリーに、被請求人使用商標(B)を付して販売している(甲第55号証)。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1、2は認め、同3は争う。審決の認定、判断は正当であり、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  請求人使用商標に類似する商標の使用について

<1> 被告が、「かばん類」に被請求人使用商標(B)の使用を開始したのは、平成5年3月である。

<2> 本件商標と被請求人使用商標(B)とは、ともに「アフタヌーンティー」の称呼及び「午後の紅茶」の観念が生じるものであり、外観において相違があるとしても、その識別機能において同一というべきであるから、被請求人使用商標(B)は、社会通念上本件商標と同一の範囲内の使用とした審決の判断に誤りはない。

(2)  混同を生ずるおそれについて

被告が被請求人使用商標(B)を商品「かばん類」について使用したとしても、請求人使用商標との関係において混同を生ずるおそれはない旨の審決の判断に誤りはない。

(3)  請求人使用商標の著名性について

<1> 商品が非類似の場合に、商標が著名でなくても混同が生じるようなケースは考えにくい。

少なくとも、本件の場合、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等と、本件商標の指定商品である「かばん類」とは、商品の形態、用途、生産者、販売ルート、需要者を異にし、類別すらも異なる非類似商品であるから、このような商品間で出所の混同が生じるためには、一方の商標に相当の著名性がなけばならないことは当然である。

<2> 「アフタヌーンティー店舗」では、請求人使用商標の付された商品のほかに、「SAZABY」、「agnes b.VOYAGE」、「ICL」、「agete」商標を付した商品を販売していることは明らかである。したがって、原告主張の販売金額は、請求人使用商標の付された商品の販売金額ではない。

また、原告の喫茶店のサービスマークは、「Afternoon Tea Room」であって、「Afternoon Tea」ではない。

また、その販売金額についても、平成5年度の38億6,000万円、平成6年度の57億6,700万円程度では、周知著名といえるほどの販売実績にはならない。

<3> 原告の「AFTERNOON TEA」に関する広告宣伝や雑誌記事は、請求人使用商標に関するものではなく、店舗としての「AFTERNOON TEA」に関するものばかりである。これらの記事の中には、店舗名と商標とを混同して記事にしているものもある。

(4)  形態の近似性

<1> 被請求人使用商標(B)は、黒ベタであるのに対し、請求人使用商標は白抜きになっているとの相違は、両者に異なった印象を与えるものである。

請求人使用商標の書体は、ロンドンのロイド銀行(乙第34号証)、アメリカンエキスプレスのキャッシュカードの「CORPORATE」の部分(乙第35号証)にも使用されており、格別の書体ではない。

また、商標に用いられるロゴを作成する場合は、文字及び語の間隔を詰めてデザインするのが常である。被請求人使用商標(B)は、通常よく採用されるレタリングの方法に従ったものにすぎない。

<2> また、被告は、被請求人使用商標(B)のようにローマ字だけで使用している場合もあるが、基本的には、背景にエッフェル塔の図形が文字部分と一体的に配されている商標を使用しているものである(甲第22号証の1、2)。

(5)  商品又は役務の関連について

室内生活のすべてを統一したテイストのもとに提案する店舗が急増し、販売店舗として1つのジャンルを形成しているというのであれば、単なる衣服、かばん類等だけを販売する旧来のアパレル店舗とは異なる新しい店舗群を形成し、新たな需要者をつくり出しているというべきである。この新しい店舗群でも、一部かばん類を取り扱っているから、例外的には原告の商品と被告の商品とを取り違えて購入する者もあろうが、これをもって常に混同が生ずると解することはできない。

(6)  被告の故意について

被告には、請求人使用商標の信用にフリーライドし、取引者、需要者に混同を与えようとの意図は全くない。

<1> 被告が、平成5年3月に被請求人使用商標(B)の使用を開始した経緯は、次のとおりである。すなわち、被告は、昭和59年7月から、商標「AFTERNOONTEA」をティーシャツ、トレーナーに使用してきた。そして、被告の直営店でもそれら製品の販売を開始し、その売上高もかなりのものとなった。このような売上の増加に伴い、平成元年11月ころに、「AFTERNOONTEA」ブランドを婦人服全般のトータルな商品ブランドに構成し直して、卸部門で取引先のデパート、専門店に本格的に卸売をしようということになり、商品及び販売企画の立案が続けられてきた。ところが、平成4年5月19日に「広島アルファベット」店等を閉鎖することになり、これに伴い、「AFTERNOONTEA」商品(ティーシャツ、トレーナー)の小売りを中止した。しかしながら、長年使用してきた商標「AFTERNOONTEA」を生かすことになり、卸売部門において、平成5年3月に、被請求人使用商標(B)を採用した下げ札を作成し、若い女性向けのシャツ、ブラウス、ワンピース、パンツ、スカート、セーター、カーディガン、マフラー、靴下、ベルト、かばん類、ネックレス等のアクセサリー等の商品にこれを付して、被告の得意先である全国の専門店、デパートに卸売を開始し、「AFTERNOONTEA」商品を積極的に展開するようになったものである。

<2> 被告が原告と多少の取引関係にあったとしても、原告の営業内容について熟知していたものではなく、被告が原告を格別意識していたとか、請求人使用商標をいわば営業上のターゲットとしているということはできない。

<3> 被告は、平成元年以降は、一部被告の直営店で小売りをする以外は、すべてデパートその他の小売店に卸販売をしているもので、デパート内及びその他の小売店での販売には一切関与していない。

したがって、原告のピクニックハンパー(甲第34号証)及び紅茶セット(甲第35号証)を店頭のディスプレイに使用していたことがあったとしても、それは被告の与り知らないことである。

<4> 被告のバッグ(甲第50ないし第52号証)は、ありふれたバッグである。被告は、バッグを春・夏物と、秋・冬物のそれぞれで50ないし60点を製造している(乙第33号証)。このような多数のバッグの中に、たとえ1、2点似たようなバッグが含まれるとしても、被告が原告の商品に故意に接近させているいったことはできない。

プレッションタイプのカーディガン(甲第53号証)についても、事情は同様である。

被告のアクセサリーについての被請求人使用商標(B)の使用は、本件商標権に基づくものである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであり、書証の成立等は、乙第45ないし第54号証を除き、争いはない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(審決の理由の記載)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  請求人使用商標に類似する商標の使用について

<1>  本件商標の形態は、当事者間に争いがない。

被告が「若い女性向けのかばん類」に平成5年3月から審決書別紙(B)の形態を有する被請求人使用商標(B)を使用したことは、被告の自認するところである。

<2>  上記に説示の事実によれば、被告が商標権者である本件商標は、ゴシック体片仮名文字「アフタヌーンティー」とゴシック体アルファベット大文字「AFTERNOONTEA」とを二段に横書きしてなるものであるのに対し、被告の使用する被請求人使用商標(B)は、アルファベット文字のみで「AfternoonTea」と表したもので、「A」と「T」のみを大文字とし、他のアルファベット文字を小文字で表し、二つの単語からなるものであるように表示しながら、「Afternoon」の末尾の「n」と「Tea」の「T」を近接させたもので、文字の配列・構成において請求人使用商標と同一である。しかも、字体・書体において白抜きの請求人使用商標を黒ベタにしたものとまったく同一の形態であることが明らかであって、このような変更により、被請求人使用商標(B)は、請求人使用商標と同一の形態に近づく方向へ変更されているものである。したがって、被請求人使用商標(B)の使用は、使用上普通に行われる程度の変更を加えたものと解することはできず、商標法51条1項にいう「登録商標に類似する商標の使用」に当たると認められる。

<3>  これに反する被告の主張は採用することができない。

(2)  混同を生ずるおそれについて

<1>  甲第36、第37号証及び弁論の全趣旨並びに各項に掲記の証拠によれば、次の事実が認められる。

(a) 原告は、昭和56年9月に、家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の販売及び喫茶店営業等を行う店舗の商号及びそこで取り扱う生活雑貨の商標として「AFTERNOON TEA」を選択し、第1号店として渋谷パルコ店を開店した。

その後、「アフタヌーンティー店舗」の店舗数は増加し、平成4年度(平成5年3月31日現在)で28店、平成7年4月末現在で41店である。「アフタヌーンティー店舗」における請求人使用商標を付した生活雑貨商品の売上額は、平成4年度において31億1,680万円、平成6年度において57億6,700万円である。

原告は、喫茶店営業のための商標として、「AFTERNOON TEA ROOM」を採用し、昭和56年から営業しているが、「アフタヌーンティールーム」の店舗数は、平成7年4月末現在で44店(他に、アフタヌーンティー・ピザキッチンが1店ある。)であり、その売上額は、平成5年度で41億5,645万円、平成6年度で60億9,100万円である。

(甲第3号証、甲第24号証、甲第96号証)

(b) 原告は、昭和62年から、「アフタヌーンティー店舗」で販売する生活雑貨に審決書別紙(A)の形態を有する請求人使用商標を使用している。

請求人使用商標は、「Afternoon」の最後の「n」と「Tea」の「T」との間を一字分空けることなく近接させた点に特徴がある。

原告は、昭和62年から、喫茶営業の商標である「Afternoon Tea Room」の書体に、請求人使用商標に類似した書体を使用しているが、原告による使用の形態は、「Afternoon」の末尾の「n」と「Tea」の「T」との近接の程度が強くないため、「AfternoonTea」と1つの単語のごとく理解されることはなく、しかも、その後ろに同じ程度の間隔で「Room」との単語を配しているため、「AfternoonTea」と文法的に誤った商標が使用されているとの印象は与えないものである。(甲第29、第30号証、甲第31号証の1ないし16)

(c) 原告は、本件審判請求時までに、次に記載のとおり、広告宣伝を行った。

「OLIVE」平成2年ころ発行(甲第66号証)において、「アフタヌーンティーはおかげさまで今年5周年を迎えました。」との広告を行った。

「an・an」平成3年9月20日号(甲第65号証)において、請求人使用商標を比較的大きく表示した広告を行った。

「an・an」平成5年11月26日号(甲第27号証)において、クリスマスに向けた広告を掲載し、掲載された商品を販売している店舗を表示するため「アフタヌーンティー」、「アフタヌーンティールーム」との記載がある。

(d) 被告が被請求人使用商標(B)の使用を開始した平成5年3月(実際の発行日)までに限ると、「アフタヌーンティー店舗」やそこで販売されている商品については、次のとおり、雑誌等に掲載されている。

「non・no」昭和56年11月5日号(甲第97号証)の渋谷パルコパート3に関する記事の中で、出店している店の1つとして、「アフタヌーンティー店舗」と「ティールーム」が取り上げられている。「an・an」昭和56年11月13日号(甲第98号証)においても、同様である。

「mcSISTER」平成3年7月号(甲第7号証)の日常の小道具に関する記事の中で、「アフタヌーンティー店舗」と「アフタヌーンティールーム」の商品のいくつかが紹介され、請求人使用商標も、商品の写真中に写っている。

「non・no」平成3年8月20日号(甲第12号証)のアフタヌーンティーを徹底研究するとの記事の中で、店舗の商号として「アフタヌーンティー」、「A・T」と記載されている。

「an・an」平成4年1月31日号(甲第8号証)の雑貨屋を特集した記事の中で、「アフタヌーンティー店舗」やそこで販売される商品が取り上げられている。「OLIVE」平成4年11月18日発行(甲第5号証)、「MORE」平成4年12月25日号(甲第16号証の1、2、甲第17号証)、「オレンジページ」平成5年2月28日臨時増刊号(甲第10号証)、「an・an」平成5年3月5日号(甲第13号証)及び「Grand Magasin」平成5年4月号(甲第6号証)においても、同様である。

主婦の友社「雑貨のすべて」平成5年4月6日発行(甲第4号証)のアフタヌーンティーの歩みに関する記事の中で、アフタヌーンティーが原告の雑貨ブランドである旨の記載がある。

(e) 平成5年4月から、本件審判請求のあった平成7年1月までの間に、「アフタヌーンティー店舗」やそこで販売されている商品は、次のとおり、雑誌等に掲載されている。

パンニュース社「パンニュース」平成5年7月25日(甲第15号証)の記事の中で、ティールームとパン、菓子の販売と雑貨の販売を合体させた原告の独特の店舗形式等についての記述がある。

学習研究社「私の雑貨No.2」平成5年12月30日発行(甲第11号証)の中で、「アフタヌーンティー店舗」の中から渋谷店等が取り上げられ、商品のいくつかの写真も掲載されている。

主婦の友社「雑貨カタログNo.16」平成6年2月25日発行(甲第9号証)では、京都大丸サザビーコーナーが取り上げられ、商品のいくつかの写真も掲載されている。

「AERA」平成6年3月14日号(甲第28号証)の雑貨人気を取り上げた記事の中で、原告が取り上げられ、日本橋・アフタヌーンティー店の写真も掲載されている。

主婦の友社「雑貨カタログNo.18」平成6年8月25日発行(甲第14号証)の読者が選んだ雑貨ショップベスト10で、昨年に引き続き、「アフタヌーンティー」が断然トップであったことが記載され、さらに、「アフタヌーンティー店舗」のうち日本橋東急店を取材した記事等が掲載されている。

本件審判請求後のものであるが、主婦の友社「雑貨カタログNo.22」平成7年8月25日発行(甲第70号証)の読者が選んだ雑貨ショップベスト10で、「アフタヌーンティー」が3年連続断然トップであったことが記載され、さらに、「アフタヌーンティー店舗」のうち有楽町西武店を取材した記事等が掲載されている。なお、同雑誌には、請求人使用商標が大きく記載され、「株式会社サザビーの「アフタヌーンティー」で取り扱っております雑貨には、上記のロゴタイプを使用しています。雑貨以外の衣類やバッグ、アクセサリーに、そっくりのマークを使用した商品がありますが、私たちの「アフタヌーンティー」とは一切関係ありません。」等と記載された原告の広告も掲載されている。

<2>  請求人使用商標の著名性

上記<1>に認定の事実によれば、原告が本件審判請求をした平成7年1月時点はもちろん、被告が被請求人使用商標(B)の使用を開始した平成5年3月時点においても、原告が「アフタヌーンティー店舗」の商号として及びそこで販売される生活雑貨の商標として使用する「AFTERNOON TEA」が、その主たる顧客層である若い女性層に周知であり、請求人使用商標も、同様に、「アフタヌーンティー店舗」で販売される生活雑貨の商標として若い女性層を中心に周知であったことが認められる。

この認定に反する被告の主張は、採用することができない。

<3>  形態の近似性について

請求人使用商標の形態が審決書別紙(A)のとおりであることは、前記認定のとおりであり、これによると、請求人使用商標は、「Afternoon」の末尾の「n」と「Tea」の「T」を近接させたものであり、この点に特徴があると認められる。

これに対し、被請求人使用商標(B)の形態が審決書別紙(B)のとおりであることは、前記のとおり当事者間に争いがなく、被請求人使用商標(B)は、白抜きと黒ベタの違いはあるが、請求人使用商標と同一の書体を使用し、被請求人使用商標(B)と同様に、「Afternoon」の末尾の「n」と「Tea」の「T」を近接させたものであり、上記請求人使用商標の特徴をそのまま有しているものである。

そうすると、被請求人使用商標(B)は、白抜きと黒ベタの違いはあるが、請求人使用商標に極めて形態が近似した商標であるといわざるをえない。

被告は、被請求人使用商標(B)は、黒ベタであるのに対し、請求人使用商標は白抜きになっているとの相違は、両者に異なった印象を与えるものと主張するが、そのように認めることはできず、むしろ同一商標の使用上の微差にすぎないとの印象を与えるものである。

被告は、請求人使用商標の書体は、ロンドンのロイド銀行1(乙第34号証)、アメリカンエキスプレスのキャッシュカードの「CORPORATE」の部分(乙第35号証)にも使用されており、格別の書体ではなく、また、商標に用いられるロゴを作成する場合は、文字及び語の間隔を詰めてデザインするのが常であり、被請求人使用商標(B)は、通常よく採用されるレタリングの方法に従ったものにすぎないと主張する。確かに、乙第34号証の1ないし4及び乙第35号証によれば、請求人使用商標と同一の書体が、ロンドンのロイド銀行のパンフレット類及びアメリカンエキスプレスカードの表の「CORPORATE」の部分(乙第35号証)に使用されていることが認められるが、他にも一般的に多く使用されているありふれたものであることをうかがわせる証拠もないことからすると、被請求人使用商標(B)に使用された書体が請求人使用商標のそれとまったく同一であることが、単なる偶然の一致であると認めることはできない。しかも、請求人使用商標や被請求人使用商標(B)における「n」と「T」との間隔がレタリングの方法によっても通常行われる3程度のものであることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、被請求人使用商標(B)は、数あるアルファベットの書体の中から請求人使用商標と同一のアルファベットの書体を選び、かつ、「n」と「Tea」の「T」を近接させたという点において請求人使用商標と同一の形態にしたものであるから、被請求人使用商標(B)は請求人使用商標に近似しない旨の被告の主張は採用することができない。

<4>  商品又は役務の関連について

原告が本件審判請求をした平成7年1月時点はもちろん、被告が被請求人使用商標(B)の使用を開始した平成5年3月時点においても、原告が「アフタヌーンティー店舗」の商号として及びそこで販売される生活雑貨の商標として使用する「AFTERNOON TEA」がその主たる顧客層である若い女性層を中心に周知であり、しかも、請求人使用商標が、同様に、「アフタヌーンティー店舗」で販売される生活雑貨の商標として若い女性層に周知であったことは、前記認定のとおりであるところ、「かばん類」は、若い女性層が上記生活雑貨と同様に強い関心を持つ商品であると認められる。

<5>  混同を生ずるおそれについての判断

以上の認定事実及び説示に照らすと、被告が請求人使用商標に形態が極めて近似した被請求人使用商標(B)を若い女性向けの「かばん類」に使用すれば、被告が単に「AFTERNOONTEA」の商標を使用することによって当然生ずる出所の混同のおそれを超えて、その商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品ではないかとその出所について誤認混同されるおそれがあるものと認められる。

被告は、被請求人使用商標(B)のようにローマ字だけで使用している場合もあるが、基本的には、背景にエッフェル塔の図形が文字部分と一体的に配されている商標を使用している旨主張するが、被告がかばん類につき被請求人使用商標(B)のようにエッフェル塔の図形なしに使用したことがある以上、他の多くの場合にエッフェル塔とともに使用していることをもって、混同のおそれがないということはできない。

(3)  被告の故意について

<1>  被告は平成5年3月から被請求人使用商標(B)を使用したものであるところ、被請求人使用商標(B)は、白抜きと黒ベタの違いはあるが、請求人使用商標に極めて形態が近似した商標であることは、前記認定のとおりである。

<2>  甲第36号証(原告会社案内)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成5年3月当時、「SAZABY」の商標を使用して、バッグを販売し、合弁会社株式会社アニエスベーサンライズを通じて、フランス人デザイナー、アニエスベーの衣服等の商品を販売していたこと、当時、被告は原告の存在を十分認識していたことが認められるが、特にファッション関連の商品を取り扱う会社は、自己の取り扱う商品に関連する業界の情報や流行に関する情報に敏感であるから、被告の担当者も、アニエスベーの衣服等の商品を販売し「SAZABY」の商標を使用したバッグを販売する原告に関心を持ち、原告の他の取扱商品である生活雑貨が請求人使用商標を使用して販売され、請求人使用商標が若い女性層を中心に周知であることを当然知っていたものと推認することができる。

そして、前記認定のとおり、請求人使用商標に形態が極めて近似した被請求人使用商標(B)は、請求人使用商標に依拠して考案されたものといわざるをえない。

そうすると、被告の担当者は、被請求人使用商標(B)を被告の販売するかばん類に使用すれば、その商品が原告又は原告と経済的若しくは組織的に何らかの関係がある者の業務に係る商品ではないかとその出所について誤認混同されるおそれがあることを認識していたものと認められる。

<3>  被告は、平成5年3月から、若い女性向けのかばん類、ブラウス、スカート等の商品につき、被請求人使用商標(B)を使用して積極的に展開するようになった経緯に種々主張するが、なぜ請求人使用商標に極めて近似する被請求人使用商標(B)を使用するに至ったかについては、首肯するに足りる説明をせず、単に請求人使用商標の書体が格別のものではない等と主張しているにすぎないところ、前記説示のとおり、被請求人使用商標(B)は形態に特徴のある請求人使用商標と無関係に採用されたものとは到底認められないものであるから、被告主張の平成5年3月からの新しい商品展開の経緯は、上記認定を左右するものではなく、他に上記認定を左右するに足りる証拠はない。

(4)  結論

したがって、被請求人使用商標(B)の使用は、本件商標の変更使用とはいい得ないとの審決の判断、及び被告が、被請求人使用商標(B)を商品「かばん類」について使用したとしても、請求人使用商標との関係において、混同を生ずるおそれはないとの審決の判断は、いずれも誤りであり、しかも、被告には故意も認められるものであるから、原告主張の取消事由は、理由がある。

3  よって、原告の本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する(平成10年5月12日口頭弁論終結)。

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

平成7年審判第1744号

審決

東京部渋谷区元代々木町49-13

請求人 株式会社 サザビー

東京都新宿区市谷船河原町11番地 飯田橋レインボービル6階

代理人弁理士 安原正之

東京都新宿区市谷船河原町11番地 飯田橋レインボービル6階

代理人弁理士 安原正義

大阪府大阪市中央区安土町3丁目3番5号

被請求人 株式会社 イケガミ

東京都千代田区神田須田町1丁目19番地 梅村特許事務所

代理人弁理士 梅村莞爾

上記当事者間の登録第2023874号商標の登録取消審判事件について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

審判費用は、請求人の負担とする。

理由

1. 本件登録第2023874号商標(以下、「本件商標」という。)は、「アフタヌーンティー」の片仮名文字と「AFTERNOONTEA」の欧文字とを二段に横書きしてなり、昭和60年7月26日に登録出願、第21類「装身具、ボタン類、かばん類、袋物、宝玉およびその模造品、造花、化粧用具」を指定商品として、同63年2月22日に登録されたものである。

2、 請求人は、「本件商標の登録を取消す、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と主張し、その理由及び答弁に対する弁駁を次のように述べ、証拠方法として、甲第1号証乃至甲第66号証(枝番号含む)を提出している。

(1)、請求人は、1981年9月に家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等の販売及び喫茶店を営業する店舗の商号として、「AFTERNOONTEA」を選択し、渋谷パルコ店をオープンしたのを始めにほぼ毎年店舗数を増加し、そして1993年の実績では、雑貨の販売を扱うアフタヌーンティーでは、38億6600万1千円、喫茶を提供するアフタヌーンティールームでは41億5645万円、1994年見込みではアフタヌーンティーは49億6721万円、アフタヌーンティールームでは58億5638万円となっている(甲第3号証 報告書)。店舗数は、1994年10月31日現在、アフタヌーンティーは40、アフタヌーンティールームは41である(甲第3号証 報告書)。

その間、請求人、東京都港区南青山4丁目18番11号所在株式会社サザビーは、1987年作成を松本高明(TAKAAKI MATSUMOTO)氏に依頼した商標目録1記載のロゴマークを使用している(以下、請求人使用商標という)。同請求人商標では、従来通常は大文字Aと同文字に連続するfの文字との間隔は離れているのに対して、間隔を縮めている。更に、本来は2単語である「Afternoon」と「Tea」を文法的には誤っているにもかかわらず、敢えて「Afternoon」と「Tea」との間隔をせばめ1単語として扱って表示してなる。

そして請求人は、請求人使用商標を雑貨、喫茶店等の商品商標、役務商標として使用し、宣伝広告に努めた結果、各種の雑誌でも紹介されるに至っている(甲第4号証~甲第17号証)。そして、雑貨ショップのベストワンに選ばれるに至っている(甲第14号証)。

したがって、請求人使用商標は、雑貨、喫茶店等の商品商標、役務商標および商号として周知著名である。

(2)、被請求人は、商標目録2記載の商標(以下、被請求人使用商標という)を、本件商標の指定商品中「かばん類」に属する商品について現在使用している(甲第18号証~甲第22号証)。

被請求人の所有する本件商標は、ゴシック体カタカナ文字「アフタヌーンティー」および、ゴシック体アルファベット文字「AFTERNOONTEA」を上下2段に表示してなるのに対して、被請求人の使用に係る被請求人使用商標は、アルファベット文字のみからなる商標目録2記載の商標であり、同一ではない。しかし、商標目録2記載の商標からは、本件商標と同様に「アフタヌーンティー」の称呼を生ずるので類似商標である。

(3)、請求人は、1981年に被請求人のショールームに請求人の家具、雑貨を納入したのが被請求人との取引の最初である(甲第3号証 報告書)。その後、請求人は1985年にファーイーストカンパニーを設立し、男子物を主体とした服飾品の輸入販売、製造販売を目的としたが、設立時の代表収締役社長はそれ以前から取引があった被請求人から生地を購入し、男子物の服飾品の製造販売を中止するまで取引をおこなった。このように、被請求人は、請求人とかつて取引関係にあって、請求人の被請求人使用商標使用を熟知していた。

被請求人の所有に係る本件商標は、ゴシック体カタカナ文字「アフタヌーンティー」および、ゴシック体アルファベット文字「AFTERNOONTEA」を上下2段に表示してなるのに対して、アルファベット文字のみを使用している。さらに、そのロゴも、請求人使用商標の特徴点である、「大文字Aと同文字に連続するfの文字との間隔を縮め、本来は2単語である『Afternoon』と『Tea』を文法的には誤っているにもかかわらず、敢えて『Afternoon』と『Tea』との間隔をせばめ1単語として扱って表示してなる。」をすべて取り入れているものであり、偶然の結果とはいえない。

(4)、請求人商品と被請求人商品との混同について

混同は、法解釈上蓋然性であると解されるが、請求人の依頼による株式会社伊藤忠ファッンョンシステム作成「池上『アフタヌーンティ』ブランド認知実態調査」(1994年9月28日)によっても、請求人商品と被請求人商品との混同は明らかである(甲第23号証 調査報告書)。

(5)、本件商標登録取り消し審判請求に係る商標法51条1項は以下の内容からなる。

A、商標権者が故意に

B、指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって、

C、商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、

D、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

(6)、要件Aについて

<1>、請求人商標の周知性、蓍名性について

請求人は、1981年9月に家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実等を販売する商品商標、役務商標として「AFTERNOONTEA」を選択し、役務商標として「AFTERNOONTEA」を一部に採用する喫茶店アフタヌーンティールームは平成7年3月期実績で60億910万円、台所用品等の商品商標として「AFTERNOONTEA」を採用するアフタヌーンティーの販売実績は57億6700万円、合計118億5800万円である(甲第24号証、株式会社サザビー 常務取締役 岩本眞弘による報告書)。更に、平成7年4月末現在の展開店舗数は、アフタヌーンティーは41店舗、アフタヌーンティールームは44店舗、合計85店舗である(甲第24号証)。

その間、広告宣伝につとめ、最近に限っても「NON・NO」(甲第25号証、株式会社集英社平成7年4月5日号)、「an・an」(甲第26号証株式会社マガジンハス1995年4月7日号)、「an・an」(甲第27号証 株式会社マガジンハス1993年11月26日号150~153頁)等に広告し、その結果甲第4号証~甲第17号証で紹介されるにいたっている。

そのため、「AERA」において、「雑貨店経営者のあこがれの的がサザビーだ。「アフタヌーンティー」などのブランドを持ち、全国に32のチェーン店があるが、もともと社長の雑貨好きからはじまった。」と紹介されるにいたっている(甲第28号証 朝日新聞社発行1994年3月14日号58頁)。本件商標の指定商品とは非類似商品であったとしても、請求人の商標の存在を知らないとの主張は認められない。

<2>書体の近似性について

請求人の使用する商標は、商標目録1記載の態様からなり、アフタヌーンティールームでは、「AFTERNOONTEA」部分に関しては商標目録1の態様で使用している(甲第29号証 アフタヌーンティールームメニュー、甲第30号証 アフタヌーンティールームメニュー)。

家具、雑貨、文房具についても同様、商標目録1記載の態様で使用している(甲第31号証の1~16 請求人製品雑貨等写真)。

他方被請求人の所有する本件商標は、ゴシック体力タカナ文字「アフタヌーンティー」および、ゴシック体アルファベット文字「AFTERNOONTEA」上下2段からなる。しかるに、答弁書(2)において被請求人が自ら認める甲第18号証乃至甲第22号証で使用する商標は、商標目録2からなり、本件商標に比しはるかに商標目録1商標に形態を近似させるものである。

書体は、数限りなく存在するのにわざわざ近似した書体を選択した点に、被請求人の故意の存在が認められる。

いわゆる、ヤシカ事件判決をみるまでもなく、商標権者は商標権を取得すれば自由に商標を使用できるものではない。

<3>、被請求人の請求人商品の熟知について

答弁書(3)において、被請求人は、「サザビーの家具は購入したことはあるようであう」と、請求人の家具の購入を認めている。しかし、「雑貨についてはそのような事実はない。」と主張する。

しかしながら、家具販売会社でもない被請求人が、家具を購入したのは衣服のディスプレイに使用するためであり、同様にサザビーの家具とともに請求人の販売するアフタヌーンティーの雑貨も同時に納入しており、被請求人も請求人がアフタヌーンティーの名称で雑貨を販売していたのは熟知していた(甲第24号証 報告書)。

<4>、被請求人の商品展示における、請求人商品の利用

請求人は、商標目録1.AFTERNOONTEA商標を付したピクニックハンパー(甲第32号証 ピクニックハンパー写真)、紅茶セット(甲第33号証 紅茶セット写真)を販売している。

ところで、被請求人は、兵庫県神戸市椛台5-9-4所在 西神そごうにおいて少なくとも1993年12月末ごろ、商標目録2 AFTERNOONTEA商標を付した被服を販売するにあたりディスプレイに、請求人のピクニックハンパーを使用していた(甲第34号証 西神そごう写真)。

さらに、東京都渋谷区道玄坂2丁目29番1号所在SHIBUYA109MYPACE2でも1994年3月頃、商標目録2商標AFTERNOONTEAを付した被服を販売するにあたりディスプレイに、請求人の紅茶セットを使用していた。紅茶セットの載ったテーブル上には商標目録2記載のAFTERNOONTEAの表示がなされる(甲第35号証 SHIBUYA109MYPACE2写真)。

このような行為からは、被請求人がその商品を請求人の商品、役務に近似させ、被請求人の商品は請求人となんらかの関係があるものと需要者に混同させようとする意図が明らかである。

<5>、販売商品の同一、請求人の商品役務の提供方法(複合店方式)について

請求人は、バッグ事業本部、リビング事業本部、フード事業本部外からなり、バッグ事業本部で扱うバッグの製造販売には「SAZABY」、「agnes b.VOYAGE」商標を選択し、リビング事業本部で扱う家具、雑貨には「AFTERNOONTEA」、「IGL」商標を選択し、フード事業本部で扱う喫茶店、菓子については「AFTERNOONTEA」商標外を選択し、アクセサリーについては「AGETE」を選択し、店舗リスト記載の店舗で販売、提供する。(甲第36号証 請求人会社案内、甲第37号証店舗リスト)。バッグ事業本部で扱う商品には各種バッグがある(甲第42号証 請求人力タログコピー、甲第43号証 請求人バッグ写真)。

更に、関連会社としてフランス人デザイナー、アニエスベーの商品を扱う合弁会社株式会社アニエスベーサンライズ外がある(甲第36号証)。株式会社アニエスベーサンライズでは、布製で多数のボタンを狭い間隔で正面に付し、ずんどうの袖からなる、いわゆるプレッションタイプのカーディガンが有名で各種雑誌にも紹介される(甲第38号 平成2年5月1日束京都港区麻布台2-4-9株式会社商業界発行、ファッション販売1990年5月特大号130頁、甲第39号証 東京都千代田区一ツ橋2-5-10株式会社集英社発行「MORE」116~117頁、甲第40号証、平成3年6月1日株式会社集英社発行「MEN’S NON・NO」118頁、甲第41号証平成3年12月1日集英社発行「SPUR」56、60、61頁)。

請求人は、これら家具、台所用品、日用品、文房具、菓子、紅茶、加工果実、衣服、アクセサリー等の商品、喫茶店の役務を店舗を異にして提供するのみならず、これら商品、役務を一同に集めて提供する複合店形式を採用する(甲第36号証 請求人会社案内 16~21頁、甲第37号証 店舗リスト、甲第44号証 アニエスベー店舗表)。すなわち、アニエスベーについていえば、8新宿ルミネ店、13東武池袋店、14東急日本橋店、15伊勢丹相模原店、17千葉そごう店、19有楽町西武店、21札幌店、23神戸大丸店、26阿倍野店、31名鉄セブン店、36大分トキハ店、37福岡サザビーハウス等が、他の請求人の他の商品、役務とともに店舗を構成する(甲第44号証 アニエスベー店舗表、甲第37号証店舗リスト)。

例えば、広島そごうでは1Fではアニエスベーアンファン(衣服)とアガット(ナクセサリー)、1.5Fではアニエスベーオム(衣服)、2Fではアニエスベーファム(衣服)、2.5Fではアニエスベーファム(衣服)3Fではサザビー(バッグ)、3.5Fではアフタヌーンティー(雑貨)、4Fではアフタヌーンティールーム(喫茶)、4.5Fではアフタヌーンティールーム(喫茶)がそれぞれ設置される(甲第45号証 広島そごう配置図、甲第46号証 広島そごう売り場写真)。大分トキハ店では、アフタヌーンティールーム(喫茶)アニエスベーボヤージュ(カバン)、アニエスベー(衣服)、アフタヌーンティー(雑貨)が同一フロアで売り場が配置される(甲第47号証 大分トキハ店配置図)。池袋東武店では、アフタヌーンティールーム(喫茶)、アニエスベー(衣服)、アガット(アクセサリー)、サザビー(バッグ)、アフタヌーンティー(雑貨)が3階の同一フロアで売り場が配置される(甲第48号証 池袋東武配置図)。有楽町西武では、アニエスベー(衣服)、アフタヌーンティー(雑貨)、アフタヌーンティールーム(喫茶)が同一フロアに配置される(甲第49号証 有楽町西武配置図)。

他方、被請求人は、商標目録2記載のAFTERNOONTEA商標を付されたバッグを販売する(甲第50号証 バッグ写真、甲第51号証バッグ写真、甲第52号証 バッグ写真)。しかしながら、これらバッグは請求人が商標SAZABYの商標を付して販売するバッグと、商標AFTERNOONTEAの表示を除きデザイン、色は全く同一である。

更に被請求人は、プレッションタイプのカーディガンを商標目録2の商標AFTERNOONTEAを付して販売している(甲第53号証 被請求人カタログ)。同カーディガンは、付された商標の違いを除けばデザインは全く同一である。

更に被請求人はアクセサリーに、別紙商標目録2記載の商標AFTERNOONTEAを付して販売している(甲第55号証 被請求人アクセサリー写真)。

請求人の商品は、雑貨については商標目録1記載AFTERNOONTEA商標、バッグについてはSAZABY商標、衣服についてはagnes b.商標、アクセサリーについてはAGETEと区別して複合店で使用しているにもかかわらず、商標AFTERNOONTEAを付してない請求人の商品と同一デザインの衣服、バッグ、アクセサリーに商標目録2記載AFTERNOONTEA商標を付して被請求人が使用する行為には、あたかも請求人が衣服についても、AFTERNOONTEA商標を付した新たな商品群を発生させようとしたと取引者需要者に混同を与えようとの被請求人の意図が明らかである。

(7)、要件Bについて

被請求人は、答弁書(2)において、甲第18号証乃至甲第22号証の使用を認める。しかし、同(2)において、同号証の商標の使用は登録商標と「同一性」の範囲であり、「類似商標」ではないと主張する。

しかしながら、本件商標はゴシック体からなるカタカナ文字およびアルファベット文字らなる「アフタヌーンティー」および「AFTERNOONTEA」を上下2段に表してなるのに対して、甲第18号証乃至第22号証で使用される商標は、商標目録2記載の態様からなるのであるから本件商標と同一とはいえない。他方、商標目録1記載の商標と商標目録2記載の商標は称呼を共通とするのであるから非類似ともいえない。すなわち、商標目録2記載の商標と本件商標とは類似である。

被請求人は、答弁書(2)で、ローマ文字と片仮名文字との2段表記からなる本件商標の場合、商標目録2記載態様からなる商標は同一性の範囲にあると主張する。一般論としては、このような2段表記の登録商標の一方の使用をしても登録商標との同一性が認められる場合を否定するものではない。

しかしながら、いわゆるヤシカ事件判決を待つまでもなく、商標権者は権利を取得すればいかような商標使用も認められるものではなく、他人の周知著名商標と同一商標は登録商標であっても権利濫用として使用が認められないのに、本件では、書体は数限りなくあるなかで、あえて周知著名である請求人の商標に近似させた商標を使用しているのであるから、このような使用まで正当化させることは権利濫用であって認められない。

(8)、要件Cについて

<1>、要件Aで述べたように、請求人の商標目録1記載商標の周知蓍名性、商標目録1商標と商標目録2商標の書体の近似性、被請求人の審判請求人商標の熟知、被請求人の商品展示における請求人商品の利用、請求人商品と同一デザインに商標目録2の使用された、甲第18号証~甲第22号証、甲第53号証等の商品を販売した結果、甲第23号証調査報告書に記載される混同のみならず、実際に請求人商品と被請求人商品とは混同を生じている(甲第54号証 株式会社サザビー リビング事業本部 開発部次長兼管理部次長 小牧圭介による調査報告書)。

<2>、ブランド認識調査(甲第23号証)について

被請求人は、答弁書(4)において、ブランド認識調査(甲第23号証)は、ごく限られた特定の対象者についての調査に過ぎないとするが、調査はこの種商品を購入する需要者を対象としたものである。

<3>、2段表記、3段標記された登録商標の文字の一部を使用しても混同を生ずることがある。

例えば、53条1項に係る商標登録取り消し審判に係る判決であるが、「本来3段からなる(ミネフード/みねふ一ど/MINEFOOD)本件商標から1段目の「ミネフード」の片仮名5文字を横書きして成る部分のみを摘出して使用したことによって、引用商標を使用した原告商品と混同を生ずる結果を生じていることは明らかといわざるを得ない。」とされる(参考資料1、判例時報1325号138頁乃至140頁、東京高裁昭和62年(行ケ)229号、平成1年7月11日民事6部判決)。

(9)、AFTERNOONTEAと品質表示

答弁書(1)で、被請求人は「AFTERNOONTEA」はポピュラーな英語であると主張すう。ポピュラーな英語の意味がどのような答弁と結び付くのか必ずしも明らかでないが、AFTERNOONTEAは品質表示であるとの主張であれば、商品「茶」との関係では、品質表示となる可能性はあるが、他の商品との関係では品質表示とはいえず、本件商標も本件指定商品について登録されている。

(10)、「商標権者の故意」について

<1>、被請求人の故意の存在について(Ⅰ)

被請求人は、平成7年9月13日付答弁書(第2回)(以下第2回答弁書という)において、「甲第34号証及び甲第35号証のディスプレイは、被請求人とは、全く無関係に仕入れ先の小売店がしたことであり、被請求人はあずかり知らないことである。」と主張する(第2回答弁書9頁18~20行)。

しかしながら、ディスプレイに使用されるPOPは、通常製造業者が提供するものであって、製品イメージの統一性を保つ点からして小売店が勝手に製作することはなく、被請求人の主張はにわかに信じがたい。

<2>、被請求人の故意の存在について(Ⅱ)

被請求人は、乙第5号証~乙第9号証は請求人の製造販売した商品であると主張する(第2回答弁書 11頁末行~8行)。これら製品が請求人の商品である可能性はあるが、請求人の在庫にもないほど昔の製品であり、古すぎて請求人の製品か否か確認のしようがない。特に乙第7号証、第8号証、第9号証に使用される「AFTERNOON TEA」のロゴは現在のロゴに変更される1987年以前のものである。他方、請求人は被請求人から乙第5号証~第9号証について使用を中止する旨の警告を受けたこともない。そもそも被請求人は、何の目的でこれら証拠を保存していたのか疑問である。

被請求人は、請求人はこれら製品を所持しており、かつ店舗内で請求人は販売していたと主張するのであるから、少なくとも被請求人は請求人の商品の販売、ロゴの変遷は熟知していたものであって、商標目録2記載の被請求人使用商標の選択は偶然とは言えず、被請求人の故意の存在は明らかである。

<3>、被請求人の故意の存在について(Ⅲ)

請求人は、旧第22類「はき物」外について、「AFTERNOONTEA」商標を有している(甲第56号証 商標登録第2271710号原簿、甲第57号証 商公平1-60126号公報)。そして、商標目録1記載の商標は蓍名商標であり、被請求人の使用は51条1項に該当する旨の請求人の主張は、すくなくも本件審判請求書受領後は被請求人は熟知している。

しかるに、被請求人は、履物について少なくも平成7年7月31目に商標目録1記載の商標を付して使用している(甲第58号証 写真、甲第59号証 領収書)。更に、被請求人は、変更後のロゴを付した履物について平成7年11月7日に販売している(甲第60号証 写真、甲第61号証 領収書写)。したがって、被請求人の故意および故意の継続は明らかである。

<4>、被請求人の故意の存在について(Ⅳ)

被請求人は、本件審判請求後の平成7年10月30日にもあいかわらず、商標目録2記載商標を付した被服の販売を続けている(甲第62号証写真、甲第63号証 領収書写)。

<5>、被請求人の故意の存在について(Ⅴ)

被請求人は、第2回答弁書において西神そごう店でのディスプレイは現在は行われていないとする。しかしながら、被請求人は、相変わらずアフタヌーンティーの名称で、同一店舗の同一フロアへの出店を続けている(甲第64号証 西神そごう店内ご案内)。被請求人の周知著名商標に近付けることで不当な利益を得ようとする意図は明らかである。

なお、写真の撮影目付は、カメラの目付の調整不良である。

<6>、被請求人の故意の存在について(Ⅵ)

被請求人は、プレッションタイプのカーディガンは各メーカーで当たり前の商品として使用されているものであって、請求人の商品群に近似させたプレッションタイプのカーディガンは製造していないと主張する(第2回答弁書13頂4行~21行)。例示する乙第10号証~18号証に記載されるカーディガンは、ボタンの数が少かったり、素材が綿以外のものからなったりしており、請求人製品と被請求人製品との共通点を欠くものが大半であり、全体として、被請求人の請求人の商品群へのすりより行為は明らかである。

(11)、「指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用」について

被請求人は、被請求人の使用にかかる商標目録2記載の商標は、甲第2号証商標と同一性の範囲にあると主張する(第2回答弁書15頁16行~18行)。しかしながら、明らかに両者は外観を異にし、請求人の使用にかかる商標目録1の商標の有する特徴をすべて備えるなど故意とともに同一範囲を逸脱した類似商標である。

(12)、「商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」

<1>、請求人商標の周知性、著名性について

本要件では、混同を求めているが、必ずしも周知著名性は規定していない。ただし、周知著名な商標であれば混同を生じ易いものである。

被請求人は、周知著名に至った請求人の宣伝広告は、審判請求後のものに限られると主張する。

しかしながら、請求人が営業努力宣伝広告に努めたからこそ、甲第4号証~17号証に記載されるように各種雑誌に紹介されるほど周知著名になったのであって、何もしないのに紹介きれることはない。

なお、審判請求前にも、請求人は宣伝をおこなっており、一例をあげるなら、(甲第65号証 1991年9月20日 株式会社マガジンハウス発行「an. an」、甲第66号証 1990年 株式会社マガジンハウス発行「オリーブ」)(なお、第2回弁駁書の5頁が脱落しているが、同日提出の平成7年取消審判第1741号と主張が全く同一であるので、その主張をそのまま援用する。)

<2>、出所の混同と商品区分について

被請求人は、商品の出所の混同と商品区分を関連させてとらえる(第2回答弁書4頁10行~5頁23行)。 しかしながら、商品がどの類に属するかと、被請求人の商品は、請求人の商品群の一部を構成するものとして認識され、出所の混同をするのかとは関係がない。

<3>、出所の混同は、法解釈上蓋然性で足ると解されるが、請求人の商標の周知著名性がその蓋然性を充足するものである。更に、実際に混同の事例が存する(甲第23号証、甲第54号証)。更に、人証にて立証する。

<4>、店舗の販売高について

約1/3のみが、AFTERNOONTEA以外の商標を付した商品の売上である。

(13)、したがって、被請求人の使用は商標法51条1項の各要件を充足するので、本件商標は取り消されるものである。

3、被請求人は、結論同旨の審決を求めると答弁し、その理由を次のとおり述べ、証拠方法として乙第1号証乃至乙第33号証を提出している。

(1)、請求人使用商標の周知著名について

請求人は、1981年9月以来、家具、台所用品、日用品、文房貝、菓子、紅茶、加工果実等の販売と喫茶店の店舗の商号として「AFTERNOONTEA」を採用し、1993年では雑貨の販売では38億円余、喫茶店では41億円余の販売実績をあげており、その店舗数も雑貨の販売が40店舗、喫茶店が41店舗である。その間の使用実績と宣伝により、雑貨、喫茶店の商標として周知著名であると主張をする。

しかしながら、かかる販売実績こついては、甲第3号証の報告書によるだけであり、これが正しいものであるかについては直ちに認めることはできない。

また、請求人の「AFTERNOONTEA」は、雑貨販売の「店舗名」として使用がされている。その取り扱い商品の中には一部に商標「AFTERNOONTEA」が商品に付されて使用されているものもあろうが、請求人は、本来は輸入雑貨を販売していることから、輸入商品の商標をそのまま商標として販売していることもあろうし、また請求人の商号でもあり、メインブランドである「サザビー」「SAZABY」商標を付した商品の販売も当然含まれているものと推察できる。

したがって、請求人の主張する販売実績が、正確に商標「AFTERNOONTEA」商品の販売実績を表しているとは到底信じられない。

請求人は、「AFTERNOONTEA」という名称の店舗の売上実績と商標「AFTERNOONTEA」商品の売上実績とを混同して主張をしていることは明らかである。

甲第3号証の報告書では、店舗における販売高を述べているようであり、商標「AFTERNOONTEA」商品の販売実績を表してはいない。

このような不正確な主張によっては、本件審判の請求を成り立たせることはできない。

どうも請求人は、同一店舗で雑貨とか家具とか、被服とか、種々雑多の商品を販売していることから、この店舗名と同じ商標の商品は、すべて請求人の取り扱い商品かと混同を生じると思い込んでいるようである。

しかしながら、店舗の名称は、「商標」ではないし、かばん類と家具、台所用品、日用品、文房具、菓子等の食品とは非類似商品であり、しかも類別をも異にする商品どうしであるから、それなりの販売実績と宣伝活動がなければ、出所の混同など起こりえない。

ところが、請求人の主張する38億円とか昨年の見込み販売実績の49億余円というのは、例えば被服とか家具とかという単品の商品の販売高としても、直ちに蓍名性、すなわち類別を異にする非類似商品の商標と出所の混同を生じる程の著名性を認めることのできる程の販売実績といえる数字ではない。

ましてや、この販売高のなかには、家具(第20類)、コップ等の食器類(第21類)、カジュアルウエア(第25類)、かばん類(第18類)、せっけん(第3類)、ペッドリネン(第24類)その他の種々雑多な商品が含まれているものと考えられる。

しかも、このなかで「カジュアルウェア」や「かばん類」には、被請求人が商標権を所有するものであるから、「AFTERNOONTEA」は当然使用がされていないであろう。

してみれば、「AFTERNOONTEA」商標としての販売高は、それほど多額なものとは考えられない。

また請求人が提出した証拠方法を検討してみても、請求人が積極的に宣伝活動をしている様子は窺えない。

請求人が提出した証拠方法の甲第4号証乃至甲第17号証はいずれも所謂情報誌といわれる雑誌において、「AFTERNOONTEA」の店舗の紹介記事(甲第4号証)や「AFTERNOONTEA」商標の商品が紹介されているにすぎないものである。

しかも各頁に必ず「AFTERNOONTEA」商品が記事として紹介されているものではなく、「AFTERNOONTEA」以外の商品ばかりが紹介されているものもかなりある。(例えば、甲第9号証の3頁、甲第10号証の3~6頁、9頁、甲第11号証の3、5、6、8頁等)

これらの情報誌では、他社の商品と一緒に、その中の一つとして「アフタヌーンティー」がいつも極く小さい文字で紹介されているもので、この程度の雑誌等における掲載だけでは、積極的な宣伝活動ともいえないし、これらにより、商標「AFTERNOONTEA」が著名性を得るに至っているとは到底いえるものではない。

通常、取引の実際にあっては、一定の売上があって、それに相応した宣伝活動ができるものである。したがって宣伝活動をみれば、逆に売上高も推定できる場合もあるが、本件審判において提出された資料程度では、殆ど宣伝活動がされていないということになり、したがってその販売高もそれほどのものではないということが、逆に推測できるのではなかろうか。

提出された証拠方法や請求人の主張では、商標「AFTERNOONTEA」が周知または著名であることを認めることはできない。

また、「AFTERNOONTEA」は請求人が案出した独自の商標というものではなく、「午後のお茶」「午後の集い」としった観念が生じる熟語として英語にあるものである。我が国でも一般的に目にするポピュラーな英語である。

本件審判では、類別を異にする非類似商品でありながら、同じ「AFTERNOONTEA」を商標として使用しているために出所の混同を生じるとの主張がされているものである。

「AFTERNOONTEA」が以上のような一般的な英語であることを考えると、一般の需要者が、これを聞き、またこれを見て、以上の観念は観念として、さらに直ちに請求人の商標であると想起できるようになるためには、相当の販売実績があることと、積極的な宣伝活動が相当の年月にわたってされていることが必要である。

請求人の主張及び提出された証拠方法によっても、そのような実績を認めることはできない。

喫茶店の店名、即ちサービスマークとしての使用についても格別の証拠があるものではなく、その著名性を認めることはできない。

(2)、被請求人の使用商標について

被請求人は甲第18号証乃至甲第22号証の態様で使用をしていることは認める。

しかし、同時に乙第1号証乃至乙第3号証として提出した態様でも使用をしている。これは、本件商標の指定商品とは異なるニット製ベストの商標であるが、請求人が指摘する態様以外の態様でも使用をしている事実がある。

ところで、本件商標は、片仮名文字の「アフタヌーンティー」とローマ文字の「AFTERNOONTEA」とを上下二段書きにした構成である。

一方、被請求人の使用商標は、ローマ字のみの「AfternoonTea」である。

本件商標と使用商標では、その態様が異なることは認めるが、本件商標のような二段書きの商標は、ローマ文字部分から生じる発音を片仮名文字で表示したものであり、ローマ文字だけで構成された場合と特に異なることがないと考えて出願をしているものが殆どではなかろうか。したがって、このような態様の登録商標では、実際に使用がされる場合はローマ文字だけで表示がされるものが殆どである。

この場合両者の称呼及び観念は全く同じものであり、ローマ文字部分はお互いに同一なのであるから、識別機能においては全く異なるところがないものである。このような使用商標では、登録商標の「同一性」の範囲内と考えるべきである。敢えて「類似商標」とすべきものではない。

(3)、被請求人の故意について

本件商標は、昭和60(1985)年7月26日に登録出願がされたものであるが、これに先立て被請求人は、昭和57(1982)年5月20日に旧第17類で本件商標と同じ態様の「アフターヌーンティー AFTERNOONTEA」商標を登録出願し(乙第4号証)、この商標登録出願が登録されたので、さらに本件商標を登録出願したものである。

一方、請求人は、昭和57(1982)年5月14日に上段にローマ文字で「AFTERNOONTEA」、下段にカタカナ文字で「アフターヌーンティー」と二段書きした態様の商標を旧第19類について、登録出願ししたものが最初のものである。

両者は、最初から全く無関係に採用され、出願されたものである。

その後は、昭和59(1984)年7月から被請求人の製造販売する被服に本件商標を採用し、併せてかばん類にも本件商標を使用して、その後継続して今日までこれを使用しているものである。

請求人は、「Afternoon」の「A」と「f」の間隔がつまっているとか、「Afternoon」と「Tea」との間をつめて本来2語であるはずなのに1語で表示するのはおかしいとするが、ロゴマークを作成する場合は、文字間隔を狭めて本来であれば活字の間が空くのを避けて、一連一体に表示しようとすることは通常用いられている方法であるし、熟語である「AFTERNOONTEA」を間隔をあけることなく表示することは、文法的には何か問題があるかは知らないけれども、それほど特異で不自然なこととも思えない。

請求人が問題とする被請求人の「AfternoonTea」の書体は、黒べタであり、一方請求人の「AfternoonTea」の書体は、横軸以外はすべて白抜きになっており同じではない。

また請求人の「AfternoonTea」の書体は、格別特異な書体とはいえないもので、その特徴は白抜きの部分ではなかろうかと思える。

被請求人は、そもそもが、全く無関係に商標を採用し、それを登録して、さらに長年にわたって使用をしてきているものである。

甲第3号証の報告書では、請求人の総務部総務課 加藤昭子がサザビーの家具以外に「アフタヌーンティー」商標の雑貨を納入したことがあると理解できるような言い方で第三者からの伝聞として記述しているが、サザビーの家具は購入をしたことがあるようであるが、雑貨についてそのような事実はない。

しかしこのことは今から10数年前のことであり、このようなことが、どうして現在の本件審判の請求に結びつくのか理解ができない。

以上のような主張をするのであれば、かって請求人が、本件商標の商標権がありながら、敢えて請求人の「被服」その他旧第17類に属する商品について「AfternoonTea」を付して製造販売していたことも問題としなければならないのではないかと思う。

被請求人に「故意」があるというのであれば、もっと以前に問題にすることもできたのではないか。

請求人の商品との間に混同を生じさせようという故意などまったくない。

本件商標の指定商品と、被請求人が販売する家具、台所用品、日用品、文房具類、その他の商品とは、類別すら異にする非類似商品どうしであり、通常の取引をする限りは、出所の混同は生じようがないのである。

このような取引の実際の中でどのようにして「故意」に出所の混同を生じさせようというのであろうか。

請求人は店舗名として「AfternoonTea」を使用しており、そこで販売する商品の中に一部「AfternoonTea」商標を付された商品が含まれている。また商品「被服」「かばん類」も、当然違うブランドではあるが販売をしている。しかもその戦略は、店舗名、個別の商品商標ばかりでなく喫茶店を含めてトータルに「AfternoonTea」を全面に押し出すようにして営業活動をし、商品の小売りについては所謂「雑貨」を中心にしながらも「被服」「かばん類」をも併せて販売しているのである。

提出された甲第4号証以下の情報誌の記事の中には、「アフターヌーンティー」という商標を表示しているのではなくて、店舗名として「アフターヌーンティー」を掲載しているものがかなりあるのではないかと推察できる。

「店舗名」が商標ではないとしても、また形式的に被服やかばん類に別の商標を付しても、請求人のような方法をとれば営業的に被請求人の商標と接近せざるをえないのは当然ではないかと考えられる。その結果、「出所の混同」を生じるとか、「故意」であるとか主張されては、正当な商標権を所有する被請求人としてはたまったものではない。

請求人の主張には到底納得ができない。

(4)、請求人商品と被請求人商品の混同について

本件の場合は、商品類別を異にするまったく非類似どうしの商品について使用される商標の間で出所の混同を生じると主張するものである。

すなわち、被請求人は、かばん類に本件商標を使用しているところ、被請求人が使用する家具、日用品、文房具類等の商標と出所において混同をする。 すなわち、被請求人のかばん類をみて、請求人の商品または請求人と関連のある商品かと一般の需要者が間違えてしまう程請求人の商標が著名であるというものである。

しかしながら、既に述べた通り、請求人の商標については、その著名性を肯定するに足りる資料もなく、また事実そのような著名性もないことは明らかである。

したがって、混同が生じるおそれはない。

なお、請求人は、このような混同とは蓋然性があればよいと主張をするが、その蓋然性とは、何人かの人に聞いて、その内何人かが間違えているから、だから混同が生じるおそれがあると認定できるといったものではない。

通常の注意力をもってしても間違ってしまうことが、一般的に肯定できるような状況があってはじめて言えることで、請求人の主張では、なんでもかんでも、すこしでも間違った人があれば、もうそれだけで混同のおそれがあるといえるとしているようである。

そのあらわれは甲第23号証のブランド認識実態調査であろう。これは極く限られた特定の対象者に限ってされたものであり、これをもって「出所の混同」のおそれがあるということはできない。

(5)、その他

被請求人は、昭和21年2月創業をし、現在では年商120億円以上、従業員300名弱の生地素材・裏地及び婦人服製造販売・小売り、さらに紳士服の製造販売を営業内容とする中堅の立派な企業である。関連会社として「キャサリン・ロス」という婦人服小売店を20数店舗、「ディリープラネット」という書籍及び服飾雑貨の小売店も展開中である。

この中で、「AfternoonTea」商標は既に昭和59年(1984年)7月から被請求人が製造販売する被服について使用をし、あわせてかばん類に使用され現在に至っているものである。被服とかばん類を含めて「AfternoonTea」商品の昨年の販売実績推定は、約7億円である。

本件商標は、被請求人独自のブランドとして確立した実績と信用を得ているものであって、請求人の主張のような請求人の商標との間に「出所の混同」の生じるおそれなど全くない。

(6)、請求人の弁駁に対する答弁

<1>、請求人使用商標の著名性について

(広告活動について)

請求人は、請求人の「Afternoon Tea」商標に関する広告実績を示すために新たに甲第25号証乃至甲第28号証を提出する。

しかしながら、まず甲第25号証は、1995年、即ち本年4月5日、甲第26号証も同じく4月7日発行の雑誌に関するものである。これらは本件審判請求後に出版されたものである。審判請求後の広告事実をもって本件に関する引用商標の著名性を証明することはできない。

さらに、甲第28号証は「サザビー」に関する広告であって、「Afternoon Tea」とは無関係のものである。

以上のものはいずれも本件とは直接関係がない。

なお、請求人はこのような広告事実があったので、その結果先の審判請求書で提出した甲第4号証~甲第17号証の雑誌で「Afternoon Tea」が紹介されるようになったと説明する。

しかしながら、甲第25号証乃至甲第26号証は、甲第4号証以下の証拠方法より後に出版されたものである。後から成立したものが、既にあるものの原因とはならない。請求人の主張は明らかに失当である。このような主張をする請求人の真意をうかがいたい。

なお、本件審判請求前にも甲第25乃至28号証と同様の広告活動をしていたので、このような主張をしたというのであれば、審判請求前の広告に関する証拠を提出していただきたい。

請求人は、積極的な宣伝、広告活動はしていないのであろう。これまでの主張では、広告をしていると繰り返してはいるが、依然として有効な証拠がほとんど提出できないでいるからである。

営業活動の実績があって始めて広告活動ができることは理の当然であるが、これまでの証拠ではそのような事実すら証明できないのであるから、請求人の商標を「著名」などとは到底いえるものではない。

(請求人の販売高について)

請求人は、「Afternoon Tea」を店舗のショウウィンドウや店舗内の壁に大きく表示をし、そのすぐ側で、ある商品には商標「Afternoon Tea」を付し、またある商品には「SAZABY」その他の自社ブランドを付し、さらには自社の商標ではなくてメーカーのブランドを付したままで商品を販売しているようである。

請求人にとってみれば「Afternoon Tea」は店舗名であると共に、その店舗の中で販売している複数の商品商標の中の一つにすぎないものである。この点については平成7年7月12日付けの審判事件弁駁書第5頁以下で請求人も認めているところである。

ところが請求人は、この状況を自分の都合の良いように使い分けをしている。

即ち、請求人の主張では、依然として、店舗の販売高を商標「Afternoon Tea」商品の販売高としている。

個々の商品の売上高、即ち商品毎の商標の使用実績を具体的に述べることをしなしで、店舗でひとまとめにした販売高をもって商品商標の使用実績を説明したとはいえないはずである。

しかも、これらの商品は、被請求人の商品とは類別を異にする非類似商品である。被請求人の商標「AfternoonTea」との混同については、それぞれの商品毎に、商品の形態、生産者、取引ルート、需要者等取引の実状は異なるのであるから、個々の商品について吟味をし商品毎に出所の混同の有無を確かめるべきである。このことは、商標が商品の標識である以上当然のことであるし、少なくとも本件は商標法上の争いであるからである。

請求人が使用する商標「Afternoon Tea」の各商品の使用実績とそれら各商品の商標とが、本件商標との間で出所の混同が生じるおそれがあるのか、具体的に主張され、それが証明をされるべきである。

なお、被請求人は、自己の所有する商標権に基づいて、セーター等の被服及びかばん類に「Afternoon Tea」を使用するが、一方請求人は、甲第31号証の1乃至15の写真に示されている商品について「Afternoon Tea」を使用しているのみである(甲第31号証参照)

これらの商品は、既述の通り、被請求人の商品「被服」「かばん類、袋物」とは類別を異にする全く非類似の商品どうしである。

これらの商品の販売高を一つにまとめて一商標の使用実績とすることはできない。

しかも、これらの商品は、一般的には「被服」や「かばん類、袋物」に比較しても格段に単価の低いものであって、このようなことを勘案すると請求人の商標「Afternoon Tea」商品の販売高がさしたるものではないことが容易に推察できる。

(喫茶店の標識について)

さらに、請求人が経営するという喫茶店の名称は「Afternoon Tea Room」であって、本件商標の「Afternoon Tea」を一部含むものではあるが、これとは異なるものである。

また、喫茶店の名称、即ちサービスマークと本件商標とでは、いわば対象のカテゴリーが相違するし、役務の内容と商品の内容とが全く相違するものであるから、請求人の主張するような混同が生じる余地はないと信じる。本件においては、無関係のものである。

以上の通り、請求人の販売実績については、審判事件弁駁書に主張の販売金額を含めて全面的に信じることはできない。

(商標法第51条の規定の趣旨から)

本件審判請求に係わる商標法第51条規定の趣旨は、登録商標の不正使用の制裁ではあるが、同時に著名商標の保護であり、一面において著名商標の非類似商品についての出所の混同防止にあると考える。

この著名商標の保護、非類似商品についての出所の混同防止という点については、商標法第64条以下の防護標章制度とその趣旨を同じくするものと考える。

防護標章においては、特定の登録商標の指定商品と非類似の商品について出所の混同を生じる場合に、特定の登録商標の商標権のいわゆる禁止権の範囲を拡大するようなかたちで防護標章に基く権利を付与される。

本件審判請求にあっても、商品とそれに使用する商標とを特定して、その特定された商標との間で出所の混同が生じることを証明すべきである。「出所の混同」という意味からは、防護標章の登録が認められるほどの使用実績が必要であるはずである。

請求人は、商品を何でも寄せ集めて、一個の商標の「Afternoon Tea」にまとめて主張を繰り返すが、これは、特定の商品の商標が「商標」であるという「商標」の概念にも、また本条の規定の趣旨にも沿わない主張である。

また、これまでの請求人の主張及び証拠方法からでは、例えば請求人のいずれかの登録商標について、防護標章登録が認めらるというには程遠いものであるから、この意味からも請求人の「Afternoon Tea」を「著名な商標」とはいえない。

どの商品の商標「Afternoon Tea」と本件商標とが出所の混同を生じるおそれがあるのかを具体的に主張をすべきである。

<2>、被請求人の故意について

被請求人は、自社で商標権を所有しているために、その登録商標の同一性の範囲内の使用という極く当たり前の、軽い気持ちで「Afternoon Tea」商標を採用したまでであり、被請求人の意思としては、「故意に」即ち請求人の商標「Afternoon Tea」の信用を盗用して不当な利益を得ようなどという考えは毛頭なかった。

なお、参考までに申し述べると、被請求人の代理人においては、今回このような審判請求があるまで、請求人のことも知らなかったし、ましてや請求人の商標の形態も知らなかった。

被請求人も特に気にもとめずに、当職を通して本件商標の連合商標として当該商標の登録出願をしている。

このような取引の実際を知っていれば、当職においてはこの使用も登録出願もさせることはなかったであろう。法律論とは別にして、これは常識の問題である。(なお、繰り返し述べるが、このような主張は故意性を認めているものではない。そのような技術的な主張をしているのではない。この主張をもって故意性を認めたのだといわれるとすればいささか話が小さすぎるのではないか。)

(商標権の譲渡の申し入れ)

なお、請求人のことは知らなかったといったが、正確には、件外の弁理士染谷伸一が請求人の代理人として、当職に本件商標権の譲渡を再三にわたって申し入れていたことはある。正確に記憶をしていないが、多分3~4年程前のことではなかろうか。

しかし被請求人において、既に当該登録商標を使用しているので商標権を譲渡することはできないと回答をした。

また、これより以前に、株式会社ジュンの社長を紹介者として請求人の社長から被請求人に対して商標権を譲渡するようにとの申し入れがあった。これは今から10年程まえのことであろう。

被請求人の平野専務が当時担当をし、請求人に対して商標権の譲渡はできないが、これを機会に被請求人の商品(無論被服であるが)を請求人に納入できないか、即ち取引関係ができないかを提案したことがある。(この提案にたいしては、結局請求人は回答をしてこなかった。)

(被請求人の「サザビー」家具の購入について)

さらに、家具購入の事実については、被請求人の青山の新築ビルの備品としてたまたま購入をしたものである。このビルには店舗がないので、請求人が主張するような被請求人の店舗の備品として使用をしたという事実はないし、その可能性もない。

しかも、先の答弁書でも説明をしているように、この家具は「サザビー」から購入をした商品であって、「Afternoon Tea」商標の商品ではなかったはずである。

また、請求人がいうような1981年(即ち昭和56年)が事実とすれば今から14年前のことであり、事情は今とは比較すべきすべもないほどの違いようであるから、このことを主張すること自体奇妙なことである。

請求人としては、被請求人とのつながりがあったということばかりでなく、その当時からいわば「真似」をすることを被請求人が意図していたとでも主張をしたいのであろうか。しかし、14年間も気長に一つの企業に注目し真似をしようと、いわばねらい打ちをすることなどできる相談ではない。

本件のような主張が曲がりなりにもできるようになったことで、少し請求人は自身を買いかぶり過ぎているのではないか。

〓、(甲第34号証及び甲第35号証について)

またさらに、被請求人が、兵庫県神戸市の西神そごう店と東京都渋谷区道玄坂のSIBUYA109MYPEACEの店舗内において請求人の製品をディスプレイに用いたとの主張については(甲第34号証乃至甲第35号証)、被請求人は、「After noon Tea」商品を平成1年以降は、一部被請求人の直営店で小売りをする以外は、全て小売店に卸販売をしているものであり(いわゆる買い取りであり)、被請求人が「Afternoon Tea」商品のための店舗を出店したことは一度もない。

甲第34号証及び甲第35号証のディスプレイは、被請求人とは、全く無関係に、仕入先の小売店側がしたことであり、被請求人はあずかり知らないことである。

無論、これらの店舗は、被請求人のものではない。

なお、これらの店舗のうち、甲第35号証のSIBUYA109MYPEACEの店舗は既に閉鎖がされ、現在は存在しないものである。

また、甲第34号証の西神そごう店のディスプレイは現在は行われていない。ちなみに、甲第34号証の写真には「1989..」の表示があり、これは1989年の日付であろうが、今から6年も前のものであろう。

<4>、請求人の商品と被請求人の商品の混同について

(請求人の店舗展開の問題点について)

請求人は、本件商標があることを当初より承知しており、被請求人に再三にわたって商標権の譲渡交渉を申し入れていたことは既に主張をした通りである。

しかるところ、請求人は、店舗名ということで「Afternoon Tea」を採用し、これを店舗内の壁等に大きく表示をし、そのすぐ側で、食器類等の雑貨の外に、セーター、カーディガン、ブラウス等の被服、タオル等の布製品、かばん類、袋物を小売りする。しかも食器等の雑貨には「Afternoon Tea」の商標を付し、これらは「Afternoon Tea」商品だと強調するように販売しつつ、それと一緒に、「Afternoon Tea」の看板のすぐ側で、別のブランドを付しているとはいえ、被服を展示販売をし、かばん類、袋物を小売りしているのである。

また、いわゆる簡易型の買い物袋には、これがかばん類、袋物とは非類似商品ということであろうが、「Afternoon Tea」と大きく表示をして、これも販売をしているのが実状である。

なるほど、店舗名であれば商標ではないかもしれない。しかし店舗内ではあたかもトータルに、統一名称のごとく「Afternoon Tea」を強調して小売りをしているものである。

被服やかばん類の個々の商品にはそれぞれ別個の商標を付している、だから商標法上問題はないというのであろう。

しかし、被請求人がこれらの商品(被服、かばん類)に同じ商標を登録している事実を知りながら、かかる店舗展開をして、混同が生じるからけしからんというのでは、いささか請求人としても一方的な主張にすぎはしないか。

店舗の名称とはいえ、「商品」を販売しているのであり、しかも「Afternoon Tea」の看板の下でこれら商品を販売すれば、著名性のあるなしにかかわらず多少の混乱を覚悟しなければならないはずであろう。

また、このような展開を図れば、いずれ被請求人の商標権との間に軋轢が生じることになるものであり、従ってこのような展開を図るのであれば、被服、かばん類について商標権を取得しておくべきではなかったのではないか。また、その取得が困難であれば、それ相応の品揃えなり、店舗表示の仕方なりに工夫をこらし、その上で展開を考えるべきではなかったのではないかということである。

そもそも、このような販売形態をとれば、顧客が被服について間い合わせをすることも考えられよう。しかしそれは、このような販売方法を請求人が採用したときに既に問題があったのであり、それを今更被請求人のせいにされてもそれは通らない主張である。

請求人は、被服やかばん類、袋物には定価表や取引書類に「Afternoon Tea」の標章は付していないのであろう。だったら、このような店舗展開の状況のもとに、他の商標を付した被服、かばん類であればどんどん売っても商標権侵害にならないのであるから良いのだというのでは、あまりにも法技術的すぎはしないか。

周りの他の商品、即ち食器も、食品もインテリア製品もトータルに「Afternoon Tea」のもとに販売をしているのである。店舗名もこれである。

被請求人のみを一方的にせめるばかりでよいのであろうか。

(請求人の商標権侵害の事実について)

なお、乙第5号証乃至乙第9号証の写真は、請求人の製造販売する商品を撮影したものである。

請求人は、被請求人が商標権を所有していることを知りながら、このような「Afternoon Tea」商標を違法に使用をし「Afternoon Tea」の店舗内で販売をしていた事実があるのである。

特に、乙第8号証及び乙第9号証の「タオル」にご注目いただきたい。

請求人の提出した甲第36号証の請求人の会社案内の第15頁には、「ライセンス事業」の項目で「すでにこの方式により、サザビー、アフタヌーンティーの名を冠したタオル、ベッド、リネン類、ネクタイの開発を、各企業と手を組んだ形で進めています。」と説明をしている。

この中で商品「タオル」「ネクタイ」は、被請求人が所有する登録第1771710号商標「アフタヌーンティー/AFTERNOONTEA」(指定商品旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く)布製身回(他の類に属するものを除く)寝具類(寝台を除く)」)の指定商品に属するものであり、これらの行為は以上の商標権を侵害する違法な行為である。

乙第8号証及び乙第9号証の商品「タオル」は、このライセンス商品であろう。このような違法な行為をしてライセンス料の収益をあげながら、しかもこれを印刷物に掲載をしているとは、どのような考えなのであろうか。

請求人は、このようなことを一方でしておきながら、被請求人の商標が紛らわしいなどと主張をしている。これはどういうことなのであろうか。これでは、請求人の主張は一方的すぎるのではないかと非難をされても致し方ないと考えるが如何なものであろうか。

被請求人を貴める前に、かかる自己の違法行為について先ず十分なる説明をするというのが筋ではないか。

<5>、(甲第38号証その他の請求人のカーディガンと甲第53号証の被請求人のカーディガンについて)

請求人は、プレッションタイプというあまり聞き慣れない名称のカーディガンのことをあげ、被請求人がこれとそっくりの商品を製造販売したと主張をする。

しかしながら、このようなカーディガンは、各メーカーで当たり前の商品として製造をして販売をしているもので(乙第10号証乃至乙第18号証)、この業界では格別アニエス・ベーのオリジナル商品のような見方は定着はしていない。なぜならば、いわゆるホックで留めるようなカーディガンは古くからあったし、そのホックの数が多くなっても格別これによって特徴づけられるものではなく、さらにストレートの袖口も格別目新しいデザインでもないからである。

良い悪いは別にして、売れ筋商品となれば、そのような商品が続々と製造販売されるのがこの種の業界の常である。アニエス・ベーの商品ということではなくて、流行の商品だというそれだけの理山で製造販売をしたのであろう。流行の商品であれば多かれ少なかれ同じような商品が各メーカーにより製造販売されるものである。だから流行なのである。格別特異な商品の製造販売をしたとは考えられない。

しかし、このようなことよりももっと重要な点は、被請求人は、商標「Afternoon Tea」のもとに春・夏物として300種類、秋・冬物として300種類の衣服を毎年製造販売しているという事実である。この合計600種類は、全て内容の異なった商品であり、しかも各商品毎にさらに色彩、柄の異なったものが揃えられるのである。

このような多種類の商品の中で、万が一、1商品に近似したものがあったとしても、それでもって、被請求人が、請求人と混同をするような意図的な商売をしているとはいえないはずである。

甲第53号証のパンフレットは平成5年9月に印刷がされたものであるが、請求人から指摘のあった商品は、既に製造販売を止めている。なお、この商品は、たまたま折り畳んだ状態での写真であるので細部がわからないが、身の丈も違っているはずであるし、色、袖等の細部にも相当の違いがあったはずである。

請求人が主張するような商標のみが相違して、色彩もデザインも全く同じ商品ではないはずである。

この商品によって、請求人が主張するような、取引者・需要者に混同を与えようといった意図はない。

<6>、(甲第42号証、甲第43号証の請求人のバッグと甲第50号証乃至甲第52号証の被請求人のバッグについて)

請求人が主張をする商品バッグについても同様である。即ち、被請求人のバッグは、いずれもありふれた形状のバッグである。格別請求人の商品を意識しているものではない。

乙第19号証乃至乙第29号証のいわゆるファッション雑誌、通販用の雑誌には同様のバッグが数多く記載がされている。

なお、乙第30号証は、他のバッグメーカーの製品であるが、甲第51号証のバッグとそっくりである。これはありふれたタイプの商品といえる。また乙第31号証の写真のリュック(請求人では甲第50号証の1乃至4)は、バッグメーカーから最初に提案のあった乙第32号証のリュックを改良したものである。このバッグ(乙第32号証)の表面のモール条の渦巻き模様を取り除くように指示をしてデザインし直させて納入をさせたものである。

これらの製品は格別特徴があるとは考えられないもので、バッグメーカーからの提案があったので一時販売がされたものであろう。

また、被請求人は、バッグ関係だけで毎年、春・夏もの50~60点、秋・冬ものでも50~60点を製造販売するものである。

乙第33号証は、本年(1995年)秋・冬もののカタログである。

このカタログでも50数点のバッグが掲載されている。

先のカーディガンに関すると同様に、これだけ多種類のバッグを製造販売していながら、わずか何点かの商品をとらえて、被請求人のバッグの商売が全て請求人の営業活動を意識して、請求人の営業活動と混同をさせようとしているとは到底いえるものではないであろう。

請求人の主張は、取引の実際の一部のみをことさらに強調しているもので、取引の実体にはあわない主張といえる。

なお、請求人から指摘のあった商品は、既に製造販売をしておらず、乙第33号証のカタログには記載されていない。

<7>、商標の同一性について

本件商標と使用商標とは、称呼、観念共に同一であり、請求人も認めるように同一性の範囲に属するものどうしである。

<8>、店員よりの報告について-甲第54号証-

これらの報告書が事実に基づくものであるのか、これのみでは信じがたいものばかりである。具体的な顧客名もなく、いかにも要領よくまとめられたメモの内容には感心するものがある。

成立自体を疑うものである。

<9>、参考資料の判例について

請求人が本資料を提出した趣旨はわかるが、商標の同一性については、既に主張をした通りであるし、本判例の内容をみると、商標権者は既に死亡をして、その相続人が全て争わない中で一人だけ手続きを進めたようで、これではどの程度の主張がされたのかさだかでないし、対象となる商品は、肥料とか肥料の添加剤のような製造者も、取引ルートも、さらには需要者も特定できそうな、いわば狭い範囲の取引内でのケースである。

本件の場合は、いわゆる本当の意味での不特定多数の需要者を対象とする商品取引の場での問題であり、事情を異にする事案といわなければならない。

<10>「afternoon tea」という語のポピュラー性について

afternoonteaという語がポピュラーであるとの主張は、「SONY」や「YASICA」のような造語ではなくて、一般にもよく知られている語であるということで、商標として採用されても著名性を得るためには、それ相応の使用実績が必要であろうということで述べただけで、他意はない。無論請求人が述べるような商品の品質表示についてまで考えているものではない。

<11>、被請求人の使用商標について

被請求人は、この秋物から問題となった書体を変更し、これ以上の使用をしないことを決めて、実行をしている最中である。問題の書体の商標は、市場から全てなくなることになろう。

これは、自己の使用が違法であると認めたためではない。請求人がこれ以上本件のような主張をすることがないように、無用な誤解や争いを回避せんがためである。

本件商標の使用に関しては、請求人の商標の著名性はなく、また当然出所の混同の生じることもないから、本件審判の請求前において商標法第51条第1項に該当する事実はなかったことにはかわりはない。

4、よって按ずるに、本件商標は、「アフタヌーンティー」の片仮名文字と「AFTERNOONTEA」の欧文字とを二段に横書きした構成よりなるものである。

他方、請求人は別紙「A」に示す商標(以下「請求人使用商標」という。)を雑貨、喫茶店等の商品商標、役務商標および商号として使用し、周知著名であると主張している。

そして、請求人の主張するところは、被請求人が、商品「かばん類」に本件商標を使用した別紙「B」の使用態様が、本件商標の変更使用に該当するものであり、その結果、請求人使用商標を使用する請求人の業務に係る商品と混同を生ぜしめるに至ったものであるから、商標法第51条第1項に該当し、その登録を取消すべきであるというにある。

なお、この点について、被請求人は別紙「B」の他、別紙「C」の態様でも使用していると主張している(以下、別紙「B」および「C」に示す商標を「被請求人使用商標」という。)。

しかして、請求人は、請求人使用商標が輸入雑貨の販売または喫茶店の商号として使用され、周知著名であると主張し、その事実を証明するものとして甲各号証を提出しているが、甲各号証によっては、請求人使用商標が、輸入雑貨の販売または喫茶店の商号(喫茶店の商号は「アフタヌーンティールーム」と認められる。)として或程度知られている事実を認め得るものであるか、提出された甲各号証を見る限りにおいては、未だ著名の程度には至っていないものと判断するのが相当である。

さらに、本件商標は、「アフタヌーンティー」の片仮名文字と「AFTERNOONTEA」の欧文字とを二段に横書きした構成よりなるところ、片仮名文字部分と欧文字部分より生ずる称呼、観念は、共に「アフタヌーンティー」および「午後のお茶[茶話会]」であり、これ以外の称呼、観念は生じないものとみるのが相当であるから、本件商標を、片仮名文字部分のみ、若しくは欧文字部分のみで使用したとしても、社会通念上本件商標と同一の範囲内の使用と認め得るものである。

そうとすれば、被請求人使用商標は、いずれも本件商標の欧文字部分の使用と認められるものであるから、本件商標の変更使用とは言い得ないものである。

加えて、被請求人使用商標が使用されている商品「かばん類」と、請求人使用商標が使用されている商品「輪入雑貨」等とは、明らかに非類似の商品と認められるものであり、かつ、両者の態様も別紙に示すとおり自抜きと黒ベタの相違がある。

してみれば、被請求人が、被請求人使用商標を商品「かばん類」について使用したとしても、請求人使用商標との関係において、混同を生ずるおそれはないものというべきである。

したがって、被請求人使用商標は、その使用が特段の変更使用であるとは認め得ないものであり、他人の業務に係る商品と混同を生ずるものということができないから、商標法第51条第1項の規定に該当するものとすることはできない。

よって、結論のとおり審決する。

平成9年4月18日

審判長 特許庁審判官

特許庁審判官

特許庁審判官

別紙

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例